Nikkei 225 Options — Open Interest Field Manual
JPX公表の建玉残高データから、ストライク別Call−Put差分プロファイルとマックスペイン価格を算出する手順と、そこから読み取れる理論的・実践的な視点をまとめた手引き。
01 / データソースと取得ロジック
JPXが毎営業日19時台に公表する建玉残高(概算)ファイル {YYYYMMDD}open_interest.xlsx を取得する。シート「別紙1」に、日経225オプション(通常限月)のプットとコールがそれぞれ列A〜E・G〜Kに並んでおり、1行が1ストライクに対応する。
行ラベルの形式
限月は「YYMM」形式(2610 = 2026年10月限)。使用する建玉数値は「当日建玉残高」列(取引高や前日比ではない)。
日経225ミニオプション(別紙2、週次限月・125円刻み)は本マニュアルの対象外。通常オプションより限月・ストライクの粒度が異なるため、混在させると集計がずれる。
02 / 集計ロジック
通常オプションのストライク刻みは原資産価格からの距離に応じて250円・500円・1,000円・2,500円…と可変になる。表示を揃えるため、各ストライクを500円単位のバケットに丸めて合算する。
250円刻みの隣接ストライク(例: 62,000円と62,250円)は同じバケットに合算される。1,000円以上の粗い刻みの区間では、該当しないバケットが自然と空欄(データなし)になる — これはストライク流動性の粗さをそのまま反映しており、意図した挙動。
03 / グラフの読み方
■ 青(Call優勢) ・ ■ 赤(Put優勢) ・ ■ アンバー(保有中ポジション) ― Y軸は上に行くほど高ストライク、下に行くほど低ストライク(Chart.jsの既定は逆順なので scales.y.reverse = true で反転している)。
凡例は3種類。青はそのストライクでCall建玉がPutを上回る区間、赤はその逆。アンバーは「現在保有中のポジション」として個別に登録したストライクを強制的に上書き表示する枠で、建玉の多寡とは無関係に自分のポジションを一目で確認するためのマーカー。
04 / マックスペインの計算式
候補となる決済価格 S を(バケットではなく)実際の全ストライクから走査し、その価格で満期を迎えたと仮定した場合に、オプション買い手全体が受け取る本質的価値の総額を計算する。
この総額が最小になるSが「オプション売り手(主に証券会社・ディーラー)全体の支払いが最小になる価格」= マックスペイン。表示用の500円バケットとは別に、実際のストライク粒度(250〜5,000円)で計算しないと誤差が出るため、計算だけは生データに対して行う。
| 限月 | 基準日 | マックスペイン | 実際のSQ | 乖離 |
|---|---|---|---|---|
| 2026年10月限(2610) | 2026-09-11 | 66,000円 | —(未到来) | — |
| 2026年9月限(2609) | 2026-09-10 | 64,000円 | 63,039.49円 | 約960円 |
05 / マックスペイン理論の評価
マックスペイン理論は「オプション売り手が自らの支払いを最小化するよう、満期に向けて原資産価格を誘導する」という仮説に基づく。9月限のSQ(63,039.49円)は前日算出のマックスペイン(64,000円)から約960円という近さだったが、これは1回のサンプルにすぎない。
学術的な検証では、マックスペイン価格への収れんを裏付ける有意な効果は確認されていない、あるいは非常に弱いという評価が主流である。理由として次の点が挙げられる。
実務的には「当たる予言」としてではなく、建玉の偏りが最も大きいストライク帯を可視化する参考指標として扱うのが妥当。
06 / ガンマエクスポージャーとヘッジ
マックスペインとは別の切り口として、ディーラー(オプションの主な売り手)のガンマポジションから値動きを考える視点がある。個人投資家・機関投資家がオプションを買い越す局面では、その相手方であるディーラーは売り越し(ショートガンマ)になりやすい。
ショートガンマのディーラーが行うヘッジ
原資産価格が上昇すると、コールの売りポジションのデルタが増大するため、ディーラーは原資産を買い増してヘッジする。価格が下落すれば逆に売り増す。つまりショートガンマ環境では、ディーラーのヘッジ行動が価格変動を増幅させる方向に働く。
逆にディーラーがロングガンマ(オプションを買い越している状態)の場合は、ヘッジ行動が値動きに逆行し、変動を抑制する。この状態では、建玉が厚いストライク付近に価格が引き寄せられやすくなる(後述のピニング)。
ただし本マニュアルの建玉データだけでは、ディーラーがロング/ショートどちらのガンマを抱えているかは分からない。 JPX公表データは投資部門別の内訳を含まない「板寄せ後の残高」であり、売り方・買い方の区別がつかないため、ガンマの符号はあくまで一般的な市場構造(個人はオプション買い越しが多い)からの推測にとどまる。
07 / ガンマスクイーズと逆回転のスクイーズ
建玉の厚いストライク(「壁」)を価格が突破する局面で、ショートガンマのディーラーのヘッジが値動きを加速させる現象は、俗に「ガンマスクイーズ」「逆回転のスクイーズ」と呼ばれる。方向によって現れ方が対称になる。
どちらも同じ「ショートガンマのディーラーが価格変動を後追いでヘッジする」メカニズムの表裏。呼び方が違うだけで物理的な仕組みは対称。
Call建玉が突出して厚いストライク(壁)を原資産価格が上抜けると、その壁を売っていたディーラーのデルタが急増し、買いヘッジが買いヘッジを呼ぶ形で上昇が加速しやすい。米国個別株のオプション市場で頻繁に語られる現象だが、指数オプションでも建玉が薄い時間帯・限月では同様の力学が働きうる。
対称の現象として、Put建玉が厚いストライクを原資産価格が下抜けると、ディーラーの売りヘッジが売りヘッジを呼び、下落が加速しやすい。今回のグラフで言えば、60,000円のような極端にPut建玉が積み上がっているストライク(10月限で当日建玉11,740枚・差分▲11,739)を下抜けた場合に、この力学が働く可能性がある水準として注視する価値がある。
注意
この用語は業界で厳密に統一された定義があるわけではなく、文脈によって「ガンマフリップ」「ネガティブガンマスパイラル」などとも呼ばれる。本マニュアルでは、建玉の厚いストライクを価格が突破した際にディーラーのヘッジが値動きを加速させる、という力学を指す言葉として使っている。
08 / 日々の運用チェックリスト
これらは TOPページ から各限月ページを日次で確認することで追跡できる。各限月ページ上部のマックスペイン推移チャートと、日付タブによる日々のグラフ比較を活用する。
09 / 限界と注意点